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日々通信 いまを生きる 第8号 2001年10月20日 伊豆利彦
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アメリカの地上攻撃はどこまでつづくか分からない。
旧式で劣弱な軍備のタリバーンに対するものとしては、アメリカの攻撃は過剰なのではないだろうか。
そして、アメリカの苛烈な空爆、戦争拡大は、反米デモの波を拡大し、炭疽菌の被害と恐怖は、アメリカ全土にひろがったばかりでなく、国外にもおよんでいる。
最新兵器による貪欲なまでの爆撃、破壊は、アメリカの意図が単にテロに対する戦いとか、アフガンやタリバーンに対する攻撃というようなものにとどまらぬ意図を内包しているのではないかと疑わせる。
このとき日本では、米軍などの軍事行動を自衛隊が支援するテロ対策特別措置法案を、18日午後の衆院本会議で、自民、公明、保守の与党3党などの賛成多数で可決し、参院におくった。
審議は僅か6日間であった。その間の小泉首相や政府側の答弁は歴史にのこる頓珍漢なもので、質問者だけでなく、国民を馬鹿にしきったものだった。
こうして日本は、これまで曲りなりにも守られた平和主義を放棄し、平和国家としての独自の国際的な位置をうしなった。それは、これまでの周辺諸国との関係を破壊し、これからますます必要になる平和的解決のための活動を困難にした。
日本はアジアと世界の未来について、独立国としての主体的な構想がない。ひたすらアメリカの顔色をうかがうばかりで、外交の独自性をうしなっている。やはり、アメリカの従属国なのだという思いがますます強まってくる。
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<文学は無力か>という問いをめぐって
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◆前号の山本さんの通信に対する私の返信
ギリシャも滅びた。ローマも滅びた。
あなたのおっしゃるように、いま、わたしたちはわたしたちの文明の滅びるときにめぐりあわせているのかも知れません。
漱石や透谷や啄木、芥川、梶井、堀辰雄、宮沢賢治らの言葉が新しい意味をもってよみがえってきます。
太宰や大岡、堀田らの作品も新しく読み返されます。
そして幼い頃に親しんだバイブルの言葉も、いまさらのように身にしみてきます。
破滅を直視するところに、これらの言葉は生まれたのでしょう。
しかし、これまではひとつ文明の破滅は、また新しい文明の始まりでした。
このような時代に生まれ合わせて、どう生きるか。
このような時代に生きて、考えつづけること、そこに新しい思想も生まれるように思われます。
◆いま、漱石とともにしきりに思いおこされるのは広津和郎の生涯にわたる戦いである。一昨年、私は「松川裁判と広津和郎」という文章を書いた。私のホームページにも収録しておいたが、この文章を書いてはじめて広津和郎の戦いの精神に触れ、私自身の精神が新しくされた。いまも、それが私をはげまして、いまの時代に生きる力をあたえてくれる。
拙論の二・二六事件の直後に「散文精神」について講演した頃の広津について述べた部分と、日中戦争が行きづまって身動きできなくなった時代に書いた広津自身の文章を紹介する。
私のホームページ http://homepage2.nifty.com/tizu/
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松川裁判と広津和郎 ――生涯をつらぬく文学的戦い――
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『人民文庫』で「散文精神について」と題する講演をしたのが二・二六事件後八カ月の一九二六年十月十八日であった。
広津はロマンティシズムの台頭を主張する林房雄らに反対して、今はアンチ文化の嵐が吹きまくっている時代であり、今必要なのは散文精神、「どんな事があ
ってもめげずに、忍耐強く、執念深く、みだりに悲観もせず、楽観もせず、生き通して行く精神」であると説いた。
『東京日日新聞』(同月十月二七〜二九日)では、それが新しく言われ始めた最大の理由は「やっぱり今われくが当面している現実───日本の文化の進みを阻害するあの強力な壁───の圧力にあると思う」と言い、
「それは一口にいえば現実探究の精神───善悪ともに結論を急がずにひた押しに押して行く現実探究精神とでもいうべきであろう」
「現実をありのまゝに見ながら、而もそれと同時に無暗に絶望したり自棄になったり、みだりに音をあげたりしない精神──善くも悪くも結論を急がずに、じっと忍耐しながら対象を分析して行く精神──こうしたいろくの性質が数えられると思う」
と述べた。
散文精神のモットーとして「結論を急がぬ探究精神」ということを強調したのである。
人間の心理は結論を急ぎたがる。結論に走らずには堪えがたくなる。それを堪えて行く非常に強い気力が散文精神でなければならないと言い、
「この善くも悪くも結論を急がず安価な肯定にも走らなければ、悲鳴も揚げず、われくが当面している現実の中に突入して行くことの精神は、現代の作家にとって、何より必要なことではないのかと私は思う」
と述べた。
これは絶望的にならざるを得ない現実を直視しながら、絶望にうちかって、この現実と戦おうとする強い意志の表明であった。
絶望の淵に追い詰められながら、それ故にそこから反転して戦おうとする強い精神、それが広津の散文精神であった。
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政治と文学 昭和15・2 『文芸春秋』
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われわれはわれわれが動かなければならない時が必ず来るのを知っている。それは今直ぐでないかも知れない。併しやり出したものがやり出したものの力の限度をして手を挙げる時には、日本の知識階級が乗り出して行って始末をつけなければならないようになる。
――青白いインテリと罵られても、「青白さ」が実際は役に立つ時がきっと来る。何故かというと日本では比較的インテリが世界通念を持っているからである。そしてこの世界通念なくしては乗り切れない時期が屹度来る。それだからインテリ
は決して悲観も絶望もしてはいけない。又いたずらにシニックなどになってはいけない。───と。
そこで私は此処で思い切って云いたい。どうか為政者よ、虚心坦懐に聞いて欲しい、というのは、戦闘に勇気が必要であるのは云うまでもないが、それだけでは近代の科学戦は乗り切れないと同じ事が、思想戦でも云われはしないか。小乗的な、姑息な老婆心によって国体を限定し、理性のない愛国心と蛮勇とをあおりたてる事は、国家百年、千年の計をあやまるものではないか。日本の国体はどんなものでも恐れず、どんな科学思想をも包含し、それによって益々進化し、益々成長して行くものとして進めるべきではないか。───科学の栄養を与えずに、伝説の中にこの国の国柄を押込めてしまわなければ安心出来ないという事は小乗的な杞憂ではないか。
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