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日々通信 いまを生きる 第7号 2001年10月17日 伊豆利彦
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◆<いま>をどう<生きる>か
世界貿易センターの爆破事件から、1ヶ月以上がたって、事件直後の激情はしだいにおさまって、この戦慄的なテロを根絶するために、何をすることができるかが問題になってきているように見える。
復讐戦争は新しい復讐をよび、復讐の連鎖は、途方もない犠牲を出し、ついに世界の破滅を招くことになる。暴にむくいるに暴をもってするのでは、問題の解決できないということは、広く認められてきた。
しかし、アメリカ政府はテロ組織の根絶、タリバーンの壊滅を実現するとして、アフガンに対する苛烈な攻撃をおこない、戦争はますます激化し、拡大して、どのような結末に帰着するのか予測できない状態である。誤射による民間施設の破壊も相次ぎ、民間人の犠牲も時々刻々増大している。
アメリカのアフガン攻撃と犠牲の拡大は、イスラム諸国の反米闘争を激化させ、大規模な反米デモをよびおこしている。特に対米協力に踏み切ったパキスタンでは、政権の基盤がゆりうごかされ、クーデターの危険があるという。
誤爆をふくめ、これらはすべて予測された通りである。アメリカがこのような悲劇的な選択、破滅への道を選択したことは悲しいことである。私たちはこれに反対し、理性的な対応を求めてきた。
アメリカにしても、それがテロの根絶に程遠いことは知っていたにちがいない。しかし、あの惨劇がよびおこした国民的な激情、思考の麻痺、痙攣は、このような悲劇への道を、ある意味では避けがたいものにしたのであるかも知れない。悲劇とはそのようなものだ。
そうして、炭疽病菌が郵送される事件が各地でおこり、すでに死者も出て、人々を不安におとしいれている。これがあのテロ事件と直接関係があるという証拠はないというが、人々の不安はますばかりである。
むしろ、あの事件を契機に、必ずしも一つの組織によるテロではなくて、さまざまな反米テロが、さまざまな組織によって、さまざまな形で、アフガンではなくて、世界各地、アメリカ内部でも、計画され、実行されるという事態が始まっているのではないか。
ガンならば、手術で全身に転移して、手当てのしようがない末期症状に突入しはじめているのではないか。
このような現実に直面して、私たちの言説が何の意味を持つのか。文学はついに無力なのではないか。そしてまた、いわゆる平和運動に何の意味があるのか。このような懐疑につきまとわれることから私たちは自由ではない。
しかし、私たちは<いまを生きている>、現実を観念の高みから批評するばかりの言説は自慰的行為にほかならない。絶望を説き、諦観に住することもできない。あらゆる希望が虚偽であり、あらゆる絶望がおなじく虚偽であるならば、そこにどんな道があるか。
それが私たちの生きる場所である。どのような<生き方>が可能か。それが現代において、文学の生まれる場所であった。<いま>に直面して、<いまを生きる>道を皆さんとともに考えたい。
◆ 本号ではこの問題に関連して、友人山本直哉さんのメールを転載する。
皆さんのご意見を聞かせてほしい。
山本さんは少年時代に中国から引き揚げてきた方である。
中国の記憶を大事にして、幾つもすぐれた作品を書いた。
山本さんについては、次号で紹介したい。
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◆◇山は紅葉の季節を迎え、日増しに彩りを豊にしております。
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(前略)
アフガン問題はいろいろな角度から論じられています。新聞やテレビなどだけではなく、口コミ・コンピューターのメールなどを通じて情報があふれています。
根本的には人間という存在の問題にまでいくのではないでしょうか。神が人間を創ったのだとすれば、実に不完全な形に創ったのです。それは歴史を溯ってみれば歴然たる事実でしょう。
地上に争いがなかった時はありません。宗教も思想も頼りになりません。キリスト教の神も、イスラム教の神も寛容ではありません。目には目をは今もって止められないのですから。戦争はどんな「正義」を掲げたものでも、殺人行為であることに変わりはありません。人間は殺し合って最後は滅亡していくのではないでしょうか。
こんな悲観的なことを考えるようになったのは、人間に根本的な進歩がなく、しかも大量で残虐な兵器を作り続けているからです。
人間の英知がプラスの面にのみ活用されていれば、もっといい世の中になっているはずなのでした。
そして、これからも「歴史は繰り返す」で、ますます悪い方向へエスカレートしていく心配が拭えません。人類の繁栄は、既に極を超えたのかも知れないと考えざるを得ないのです。
未来を明るくするには、どうしたらいいのでしょうか。
2001.10.14.山本直哉
第二信
2001.10.15.山本 直哉
(前略)
それにしても、戦争になると文学は無力なものに見えてきますが、仕方ないのでしょうか。反戦文学が戦争阻止に役立ったというような素晴らしい話は聞いたことがありません。
時間があれば、ギボンの「ローマ衰亡史」あたりをじっくりと読みたいものです。
私の母方の祖父は戦中に政友会の代議士をしていた関係で、終戦後「戦犯」として一時政治的活動を禁じられていましたが、その間、図書館に詰めて「ローマ衰亡史」を耽読していたそうです。
その祖父がどういう思いでこれを読んでいたのか、知りたいところですが、その頃は子どもであった私には聞く機会もなく、また、その能力もなかったので、残念な気がしています。
チェーホフの著作の中にも厭戦的なものがあるそうですが、どうなのでしょうか。
私の父は永井荷風が好きで、よく「断腸亭日乗」を読んでいました。この作家にもチェーホフとはまた違った意味かも知れませんが、厭戦的な文章があります。
しかし、いずれも文学者としてはがんばってはいても、政治的な面から見れば、「無力」に近かったのではないでしょうか。
戦後文学も今では大部分が若い人から忘れられようとしています。野間宏・武田泰淳・椎名麟三・梅崎春生などの作家でさえ、ほとんど読まれていません。
これらの作家たちは戦争の体験を懸命に書き残したのであり、その作品を読めば、戦争の空しさが分かるはずなのですが、残念です。
堀田善衛や大岡昇平ですら知らない若者が多いのです。
「歴史は繰り返す」という真実に照らせば、ギボンでなくても、私たちのそばにこれら戦後作家の作品群が立派な「歴史教科書」たりうるものだと思うのですが。
(後略)
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