日々通信 いまを生きる 第76号 2003年9月26日 伊豆利彦 一覧 ホーム 前へ 次へ
9月18日は1931年、奉天（今の瀋陽）郊外の柳条湖で日本軍が自ら鉄道を爆破し、これを中国側のが起したとして、関東軍が満鉄沿線の各地に展開し、やがて、満洲全土を制圧する侵略戦争にのめりこんで行った日だ。
国際連盟の撤退要求を拒否し、連盟を脱退して満州国を樹立し、五族共和、王道楽土の建設をうたいながら、中国全土の侵略へと突き進んでいく。それは世界を敵とする戦争に発展し、あの8月15日を迎えることになった。この15年戦争の歴史を忘れることはできない。
いま、アメリカが同じ道を歩いている。その破滅は避けがたい。当時の日本人は、中国人があれほどの抵抗をするとは想像していなかったろう。中国人自身だって、それほどの自国の力を信じてはいなかったろう。しかし、事態は発展する。小さな抵抗、個々の抵抗はやがて新しい抵抗を生み、抵抗の組織を発展させ、当初は想像していなかったほどの力になって、かつて、抵抗すべくもないと思われた巨大な侵略者を破滅へ追いやるのだ。
この通信の第１号が発行されたのは、2001年の9月22日だった。いまとなっては当時の記憶は薄れている。
いまになって見ればそれは理の当然と思われるが、当時はこれほどの大きな戦争になるとは想像していなかった。世界史は大きなページをめくった。それはついに、＜現代文明社会＞の終焉にまで発展するのかも知れない。
狂気のアメリカは破滅にまで突き進まなければ満足しないのだろうか。しかし、私たちは＜文明社会＞の一員として、その恩恵を受けている。いかにしてこの邪悪な、悪魔的な＜文明社会＞を、そうでないものにつくりかえることができるか。もしかしたら、それは不可能なのかもしれないという思いはあるが、＜文明社会＞にしがみつき、その変革と存続のために努力するしかない。
インターネットをはじめ、ホームページを開き、通信を発行し始めて、この2年のあいだに、世界は変った。そして、私も変った。掲示板に投稿する人もいまはまだ少ないが、しかし、当初からはふえて、いくらか多様なものになった。ホームページの訪問者も次第にふえている。私の生きているあいだにどれほどの変化をするか、無力な私ではあるが、一日一日の変化を見つめ、10年単位、100年単位の大きな変化を思いながら、残り少ない日々をすごしたい。
初心を忘れないために、ホームページの一覧からダウンロードすればいつでも見られるのだが、創刊号をここに再録しておく。
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> 日々通信 いまを生きる 第1号 2001年9月22日 伊豆利彦
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私が生きているうちにこんな時代を迎えようとは思わなかった。そして、私はやがて七十五才になろうとしている。健康そのもと人にも言われ、自分でもそう思っていたが、体内には厄介な異物が発生していることが発見された。いま始まったこの時代の行く末を、その結末にいたるまで見極めることは出来ない。
このような時にめぐりあって、いままで読んできた漱石や啄木、芥川、その他多くの作家たちの言葉が新しい意味をもってよみがえってくる。歴史や人間があらためて新しく見えてくるような気がする。
いまほど私の内部に書きたい思いが沸騰している時はなかったような気がする。しかし、いまの私はすでに老耄して、それらを一つの文章にまとめる力はないようだ。一つのことを書こうとすると、もう一つのことが頭にうかび、また、もう一つのことがうかんで、とりとめなくなってしまう。これが確実な老いのしるしである。
これまで書いたものをまとめるようにすすめられても、幾つものテーマが浮かんで、なかなか一冊にまとめることが出来ない。それでも、『＜昭和＞とよばれた時代の戦争と文学』というテーマでほぼまとめたが、これもいつ出版できるか分からない。すでに私は過去の人間になったのだ。
私はすでにホームページを開き、いままで私の書いて来たものを公開する仕事を始めた。これは私に大きな力をあたえてくれた。まだ、私の書いたもので電子化されたもののうち一部しかuploadされていないし、はなはだ中途半端なものであるが、中途半端なまま、不完全なままに、人びとに読んでもらえるというのは、大変な喜びである。これからもたえず更新して行くのが、死にむかって生きていく私のこれからの仕事だと思う。
一冊の本をつくるということは、それはある区切りをつけることだし、それなりに完結させらなければならない。しかし、ホームページならば、それはたえず、更新されるし、たえず発展させられる。この自由さが私のような人間にはありがたいことである。いつ中断しなければならないかも知れないが、可能なかぎり自分の仕事として、努力していきたい。
ホームページという自由な言説な空間は私の精神を解放し、新しい可能性を開いてくれた。そして私は、さらに日々の断片的な思いを、断片的に書き記し、人びとに伝えたいと思うようになった。ご迷惑かも知れないが、随時私の思いを書き送りたいと思う。もし、感想や意見を寄せていただければありがたい。なお、私にこの決心をさせたのは、日文協近代部会の「葦の葉」がメルマガの形式で発行されるようになったことである。
この通信を受取った方がお友達に広げていただければありがたい。紹介してくださるかたのメールアドレスを知らせていただきたい。皆様のご支援で読者を拡大し、出来るだけながくこの仕事を続けたいと思う。よろしくお願いします。
私のメールアドレス fwie8781@mb.infoweb.ne.jp
ホームページ http://homepage2.nifty.com/tizu/
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【漱石の言葉】
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『こころ』先生と遺書
その上私は書きたいのです。義務は別として私の過去を書きたいのです。私の過去は私だけの経験だから、私だけの所有といっても差支えないでしょう。それを人に与えないで死ぬのは、惜しいともいわれるでしょう。私にも多少そんな心持があります。ただし受け入れる事のできない人に与えるくらいなら、私はむしろ私の経験を私の生命と共に葬った方が好いと思います。実際ここにあなたという一人の男が存在していないならば、私の過去はついに私の過去で、間接にも他人の知識にはならないで済んだでしょう。私は何千万といる日本人のうちで、ただあなただけに、私の過去を物語りたいのです。あなたは真面目だから。あなたは真面目に人生そのものから生きた教訓を得たいといったから。
私は暗い人世の影を遠慮なくあなたの頭の上に投げかけて上げます。しかし恐れてはいけません。暗いものを凝と見詰めて、その中からあなたの参考になるものをお攫みなさい。私の暗いというのは、固より倫理的に暗いのです。私は倫理的に生れた男です。また倫理的に育てられた男です。その倫理上の考えは、今の若い人と大分違ったところがあるかも知れません。しかしどう間違っても、私自身のものです。間に合せに借りた損料着ではありません。だからこれから発達しようというあなたには幾分か参考になるだろうと思うのです。
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坂口安吾の「白痴」に戦争になると事件が次々に起って、つい少し以前のことが、はるか以前のことのように思われるものだという言葉があった。
この2年間は本当に数えきれないほどの、平時では想像もできないおそろしい出来事が相次いだ。
アメリカはアフガンを攻め、イラクを攻略し、大軍を遠い沙漠の地に派遣して、罪もないアメリカの青年たちに死の苦しみを味あわせている。そして、限りなくふくれ上がる戦費に四苦八苦している。
それは分かりきった結果だった。
私は日本の中国に対する戦争の再現のように思えてならない。
結局には撤兵しかない。
しかし、攻めるのは易く。退くのは難しい。
下手をすれば、新しい戦場を求め、限りなく戦線を拡大して、ついに破滅にいたるのだ。
＜文明社会＞をまもるためにということが言われるが、あまりに一方的な。自分勝手な言い分ではないだろうか。
こちらが＜文明社会＞なら、向うもイスラムの＜文明社会＞なのだ。
そして、こちらの＜文明社会＞がそんなに自慢できるものでないことは日に日に明らかになっているではないか。
この＜文明社会＞を象徴するものは、何千発もの核爆弾だろうか。
あるいは大量の民間人を殺傷する誘導ミサイルだろうか。
この＜文明社会＞は多数のアジア・アフリカの人民の犠牲の上に築かれている。
コーヒーがやすい。砂糖がやすい。バナナがやすい。石油がやすい。そして、大量の廃棄物を出し、地球を汚染している。
たしかに私は＜文明社会＞の恩恵を受けているが、罪悪感もまぬがれない。
さらに、その終末が近づいていることを日々痛感させられる。
悪質のガンに苦しむ患者のようなものだ。
絶望することはできないが、楽観することもできない。
ただ、自分がガンにおかされていると自覚することは、どちらにしても必要なのだろう。
それとも、所詮、死ぬのなら、何も知らずに死んだ方がいいのだろうか。
秋はいきなりやって来たという感じのこの頃です。
気候もおかしいような気がしますが、これは、＜文明社会＞の環境破壊のせいではないかと心配しています。
いま、あらためていまの日々を生きるということを思います。
お若い皆さんは未来を生きなければならないので、私のような老人の言葉は、寝言のように気楽なものだと思われるかもしれません。
皆さんお元気で、この秋の好い季節をお楽しみください。
伊豆利彦のホームページ http://homepage2.nifty.com/tizu/
老人は陰気臭くていけません。もっと気分が明るくなるような投稿をお願いします。
明の終焉のときが迫っている。
外部からではなくて、内部から崩壊するのだ。
危機は外部にはなくて内部にある。
この危機をどう克服するか。
何よりもまず危機を危機として自覚する必要がある。