次へ トップ ホーム
================================
日々通信 いまを生きる 第2号 2001年9月29日 伊豆利彦
================================
お元気ですか。
≪日々通信≫第2号をお送りします。
1.いま恐ろしい時代がはじまった
2.私の病気
3.漱石の言葉
勝手に送信させていただいているので、ご迷惑な場合があるかと思います。
その節は、ひとこと<迷惑>とか<断る>とか返信してください。
****************************************************
◆◇いま恐ろしい時代がはじまった◆◇
****************************************************
世界貿易センターとペンタゴンの爆破、同時多発テロとよばれるこの事件を知らさ
れ、世界とともに大きな衝撃を受けた。どうしてこんな事件が起ったのだろう。何千
人もの犠牲者、いまだその遺体の多数は発掘されていない。衝撃という言葉では言い
表すこが出来ない衝撃である。
あの巨大なビルが次々に崩れ落ちる。さらに隣接のビルまでも。世界経済の中心、
そして世界最大の超近代的なビルの崩壊。それをテレヴィの映像で繰り返し見せられ
ると、私たちの誇る現代文明、都市文化がいかにもろいものであるかを痛切に感じ
る。これは一つの文明の終焉のはじまりだというような思いも浮かんでくる。
私たちの衝撃も大きいが、アメリカ人の衝撃はさらにさらに大きいだろう。犠牲者
をいたむ音楽は私たちの心をしめつける。深い悲しみの底から怒りがわきおこり、テ
ロ絶滅の誓いがわきおこるのは自然だろう。しかし、それが復讐の誓いとなり、戦い
の決意をよびかける声となるならば、それはあまりに悲しい。
死者たちが復讐をもとめているとは思えない。そして事件の直後に復讐をよびかけ
た人々も、いまは少しずつ冷静さを取りもどしているようだ。復讐は復讐を呼ぶ。そ
して、無数の犠牲者を生み出して、けっしてテロをなくすことにはならないだろうと
いうことは、広く認められて来たようだ。
テロを非難し、これと戦うことについては、世界の大多数が合意していると思う。
私がおそれていたアメリカの反射的、痙攣的な復讐の行為も、いまは抑制されている
ように見える。さらに、かつて敵対していたパキスタンのようなイスラム国家に対し
ても、協力を求め、制裁を解いて、イスラム諸国をふくむ全世界の連合をつくりあげ
ようとしているように見える。
しかし、タリバーンの制裁、その絶滅を志向する武力攻撃がはじまり、多数のアフ
ガニスタン人民が殺傷されることになればどうなるか。いま、アメリカを支持してい
る諸国でも、多くの国が武力攻撃には反対している。まして、パキスタンなどイスラ
ム諸国の人民はアメリカを支援する政府に激しく反対している。
アメリカも武力攻撃によって、テロの根を絶つことが出来るとは思っていないだろ
う。しかし、やはり武力攻撃を中止することは出来ないだろう。大量の殺戮がおこな
われたときに、彼らが失うものははかり知れない。しかもなお、それをやめられぬと
ころにその弱さがある。こうして、はて知れぬ戦争とテロの泥沼に落ち込んでいくな
らば、それは恐ろしい破滅への道なのだろう。
それは私たちの文明の避けられぬ運命であるような気がする。この運命にさからっ
て戦い、この破滅からよみがえりを実現するとき、そこに新しい世界、新しい文明が
生まれるのだろう。しかし、それは可能だろうか。可能であるにしろ、ないにしろ、
そのような道を歩くしかない。
****************************************************
‡‡私の病気‡‡
****************************************************
第1号で私が不用意に、<体内に異物が生じた>と書いたために多くの方から心配
の言葉をいただいた。
中途半端な書き方をしては、心配をかけるばかりなので、率直に報告しておきた
い。私の病気は前立腺ガンである。
ガンといえば恐ろしいが、手術もせず、注射と薬でなんとかしのいでいくことに
なっている。
いまは転移の有無をしらべるために、いろいろ検査を受けているところである。
私の病気を知った人から、手術を受けた人の例をあげて、何故手術を受けないのか
としきりに言われる。
それで、医者に聞いて見たが、手術をしても病体が残るのだといわれた。
ガンにもいろいろあるらしい。私のはあまり質がよくないらしい。
しかし、元気なことはすこぶる元気で、いまのままの治療をつづけていけば、完全
に治癒することはないが、何とか仕事はつづけていけるらしい。
私はそれでいいと思っている。やがて、七十五才にもなるし、生きるだけは生きた
のだろう。もちろん、あれもこれも、し残したことばかりである。しかし、今さらど
うなるものでもない。何ひとつまとめることなしに、この世を去るのは残念ではあ
る。しかし、それは私が選んだ道だ。あれもこれもと考えて、けっきょくとりとめな
い生涯を送った。
私はさまざまな人に出会い、さまざまなことをして、生涯を生きた。けっきょく、
これが私だったのだと思う。私は私の生涯を後悔してはいない。
インターネットが私に新しい世界を開いた。ホームページを開いて、未知の人たち
と知り合うことが出来た。研究の上でも、新しい可能性が開けてきた。
私が何の準備もなく、基礎的な知識もないままに、メルマガまがいのものをはじめ
たのも、その新しく開け行く世界を生きる喜びを感じるからである。
私のホームページや通信に、いろんな人が、意見を述べてくれる。そして、援助を
申し出てくれる。私にはそれが嬉しい。
いまのような時代にめぐりあったことも、私はそれが大変なことになるだろうと思
いながら、そこから、新しい世界が生まれるような気がしている。いや、いまからは
じまる破滅の世界から、新しい世界を生み出すためになにかをしたいと思っている。
もう老齢で、しかも、変な病気を背負いこんで、こりもせずにこんなことを考えて
いる自分に、自分でも驚く。
そろそろ悟りを開いて、あの世に行く準備でもすればいいのに、何という往生際の
悪さだろう。
しかし、私はこれが私だと思っている。死のときまで、あるいは老耄して、ボケて
しまうまで、私は私の出来ることをしたいと思う。そして、何も片付けずに、すべて
を中途半端な、途中のままにして去っていこうと思う。
それは片づくなんてものはないと思うからだ。
私はガンと共存し、死と共存して、ガンと対話し、死と対話して、終りの何年か
を、断片的な文章を書きながら、あるいはまた、人びとに語りかけ、談笑しながら過
ごしたい。
≪日々通信≫はその死にいたる日々に、見出したこと、思い出したこと、考えたこ
との記録である。
****************************************************
◆◇漱石の言葉◆◇
****************************************************
◆◇『虞美人草』より◆◇
悲劇は遂に来た。来るべき悲劇はとうから預想していた。預想した悲劇を、為すが
ままの発展に任せて、隻手をだに下さぬは、業深き人の所為に対して、隻手の無能な
るを知るが故である。悲劇の偉大なるを知るが故である。悲劇の偉大なる勢力を味わ
わしめて、三世に跨がる業を根柢から洗わんが為である。不親切な為ではない。隻手
を挙ぐれば隻手を失い、一目を揺かせば一目を眇す。手と目とを害うて、しかも第二
者の業は依然として変らぬ。のみか時々に刻々に深くなる。手を袖に、眼を閉ずるは
恐るるのではない。手と目より偉大なる自然の制裁を親切に感受して、石火の一拶に
本来の面目に逢着せしむるの微意に外ならぬ。
悲劇は喜劇より偉大である。これを説明して死は万障を封ずるが故に偉大だと云う
ものがある。取り返しが付かぬ運命の底に陥て、出て来ぬから偉大だと云うのは、流
るる水が逝いて帰らぬ故に偉大だと云うと一般である。運命は単に最終結を告ぐるが
為にのみ偉大にはならぬ。忽然として生を変じて死となすが故に偉大なのである。忘
れたる死を不用意の際に点出するから偉大なのである。巫山戯たるものが急に襟を正
すから偉大なのである。襟を正して道義の必要を今更の如く感ずるから偉大なのであ
る。人生の第一義は道義にありとの命題を脳裏に樹立するが故に偉大なのである。道
義の運行は悲劇に際会して始めて渋滞せざるが故に偉大なのである。道義の実践はこ
れを人に望む事切なるにも拘わらず、われの尤も難しとする所である。悲劇は個人を
してこの実践を敢てせしむるが為に偉大である。道義の実践は他人に尤も便宜にし
て、自己に尤も不利益である。人々力をここに致すとき、一般の幸福を促がして、社
会を真正の文明に導くが故に、悲劇は偉大である。
◆◇『道草』より◆◇
世の中に片付くなんてものは殆んどありゃしない。一遍起った事は何時までも続くの
さ。ただ色々な形に変るから他にも自分にも解らなくなるだけの事さ。
私のメールアドレス fwie8781@mb.infoweb.ne.jp
ホームページ http://homepage2.nifty.com/tizu/
次へ トップ