志賀直哉の日記抜粋　明治37年〜明治40年   一覧　ホーム

いよいよ戦がはじまりさうだがよせばいいのに随分馬鹿だねえ─あゝ馬鹿くしいく
非戦論を持して独り少しも屈するなき
戦死者は3千5百の死傷の中3百人とは嬉し
内村先生
此晩夢を見る 例の如く幻なり 　　
教会も学校も政事も殖産も正義を学び之れに達するが為めの道具なり
直方氏 負傷 実に不愉快だ､腹が立つ､戦争は大なる罪悪だ
午前は夏目さんの野分を見る､野分は､二つの見方を一時にするを要す
懴悔即ち新生涯と思ふ　　　 武郎氏帰朝の上万事定まるべし　　
久しぶりで角筈 先生の話は実によかった　　

明治37年 21歳 何ひとも無断之れを開く事を得ず
1月1日 金 晴

前の年罪少なかりしを感謝し､此年も亦然らん事を祈る｡
此朝3時寝につき､朝は例の式､青山に母ト曾祖父母ト紅葉ト団十郎ト逝きたりし二人の友の墓に参る｡
◆久本に吉花の太十と昇之助の野崎とを聞く｡◆◆昇之助の野崎は､いつもながら曲中のひと､一つとして活動せざるはなく････其間の会話､共に其性格を表白して余すなく････聴衆を優に同化せしむるに足る｡･･･4 1月2日 土 晴
喜楽座 左団次､小団次､米蔵､････等
◆演劇にあっては舞台に現はるゝ者皆名優なる事能はず｡浄瑠璃に有っては曲中の人物総て名優なる事を能ふ｡〈此朝8時院長薨ず〉近衛院長

1月4日 月 晴

◆此朝10時頃より机に向ひ昇之助に与ふるの書を作り､夜に及び平一来り､之れを写し投函す｡

1月5日

◆久本◆昇之助 芸人風の所なく後来優に人の師匠たるの品格 僅か十四五才なる由 願はくは此後ちとて 世の誘惑に敗るゝ事なく我理想の芸術家として円満に発展せんことを祈る｡

1月6日 水 晴

◆院長の葬式 ◆夜一人にて久本

1月7日 木

◆田中と木下と東京座を見る｡◆久本 聴衆総て彼女が美声につゝまれて一言なし｡
◆目前其光景を吾人に表はすの力､或は天才の或者なるか｡

1月8日 金

◆久本 土曜の晩の他は余り行くまじと決心す｡◆夜 祖父､父､英子､直三､よし子等と仏教のすご六をなす｡常になく面白く家庭の暖か味は多少益す 今日此頃誠に嬉しき傾向にこそ｡
☆☆日本の戯曲的道徳 動機善なれば
☆☆先学期成績

1月10日 日

午後平一来り共に新富に見る｡(詳しい劇評)[昇之助との比較]

1月11日 月

先月24日より聞きし浄瑠璃 ☆☆

1月16日 土

有島さんと美術学校に藤島さんの画を 博物館 薮 中西屋
◆錦輝館 [昇之助との比較]

1月17日 日

木下 林 具美 //川上 貞奴､芳翠等居たり ☆☆劇評 《[欄外]此日甚だ目ザワリなりしは5 ケ条などと熱をふきし川上其人の妻なる女優貞奴が桟じきにて酒をのみ居し事なり 御亭主も傍に居て》18 1月18日 月 岩倉を見舞ひ｡午後より祖父母｡英子等の居る歌舞伎

1月19日

三條に金色夜叉を2冊貸す｡

1月20日 水

此日も昼より休み川村と有島の家に 不在･･･中西により帰り5時頃家を出でゝ花川戸の 東橋亭 昇之助の柳ある筈なりしに風邪にて欠席せしは誠に残念なり｡吾は此所を出で直ぐ帰る 10時半 なり

1月21日

伊東に不如帰を貸す｡

1月23日 土

昇之助の欠出 たしかめんとして知れず 4人 東橋亭 昇之助の旅館 電話番号

1月25日 月

終日家にて勉強せんと籠城せしかいもなく水車を少し書きしだけのこと

1月26日 火

朝の内は学校で浪費し､午後は正親町邸に浪費し夜は有島邸に浪費す｡
◆◆直方氏より手紙 山形に来よと云ふ｡

1月28日 木 晴 温

朝から浪費す｡武者ノ誘惑 朗読的
◆◆夜 一人で東橋亭に行く 大切はそれこそ久々にて御目見えの昇之助

1月29日

朝平一の家 11時頃まで遊び学校に行き相撲い｡帰途徳川と又平一の家 帰りて夜7時頃より 琴平に行く｡･･･がいして云へば昇之助より下手なり｡

1月30日 土

小雨 温 午前よろ平一来り正午頃有島来り､3時頃家を出でゝ有島と明治に行く｡
◆◆◆此日有島便所に行く時昇之助に出遇ひし由なるが至って質素ななりなりしとヒイキ眼には無邪気と 見し｡

1月31日 日

午前と午後なす事もなく家にあり｡

2月1日 月

学校を休み午前中独語を引き､/午後は､紅葉全集を買ひ来り一寸読み｡/又善悪柿太郎を生れる迄で書く｡/夜平一の家に一寸より喜吉に至る､････

2月4日

円満に発達せよ､昇之助!!! ☆☆☆

2月5日 金 今

朝もとうとう白鳥さんを休すんだ //毎晩の寄席行に流石､くたびれたか今晩の野崎は 聞きともない｡/まうねやう!!!なんだ未だ6時か？
☆☆☆いよいよ戦がはじまりさうだがよせばいいのに随分馬鹿だねえ─あゝ馬鹿くしいく

2月6日 土

動員令､送別会､清水谷､宝亭｡一時はゑらい騒ぎさ｡//夜平一と喜よしに行く｡川村も来る 有島も来る｡中々繁昌なことさ｡････有島 野崎 昇之助 ☆☆☆

2月9日

研究 娯楽 ☆☆☆ 義務 日本だましい｡忠君｡愛国｡ 明かに説明すれば反へつて価を失ふ不思議 なる名の元に｡☆☆☆ 一ツ木の風き衛兵 自分等の為めの犠牲 まつり上て､命をもらう吾々が帰って床に暖く眼をねむる時｡
☆☆☆厚意 偽善 利己主義

2月10日

喜よし おじいさんや有島､木下､正親町､佐竹等 《[欄外]今日マデ昇之助は二十二回聞く､》 33 2月11日 木 朝5時の汽車で山形に行く ☆☆☆

2月14日 日

上野に着いたは8時半頃 たうく内村先生の所へは行けずじまい /御ひつから平一と歌舞伎の名人会 これを終へてから喜よしへかけ持ち
35 2月15日 月 学校を休んで夜､弓彦の家と平一の家により9時半頃喜よしに行く｡学校の人､無慮11人とは盛んなことさ､昇之助の寺子屋は実によかった｡
◆◆男は義太夫を語る女は歌ふ｡

2月17日

広勝の家の亀の子焼き 不味い 若様 娘

2月18日

麻布亭 壷坂 お里 ｢天子様でも､虫けらのようなわたしらでも､あなたにへだてはないわいな｣と云ふ一句

2月20日 土

宮松 小豊後より聞く 昇之助の和田三 喜よしの時よりは早く帰れる

2月21日 日

8時から4時半まで真正の浪費 9時少し前から麻布亭

2月22日 月

7時半から ブッフハイム 6時間正味学びましたれば 8時に家を出て琴平

2月23日 火 夜 麻布亭
2月25日　 アウフの写真
3月4日 金 春日
3月9日 水

越中島にて逃走兵7名銃殺せしと 人が人を神の前には罪ならぬ事によりて公然殺す､人が人を｡
//夜一人琴平に行く｡
◆義太夫を聞きて今迄で感心せしは前後3回なり◆喜吉に於ける昇の堀川､麻 布にての相生の鳴戸と琴平なる小清の鰻谷

3月10日 一人又琴平に行く｡
3月11日 金 夜 又琴平に行く｡
3月14日 月 英雄崇拝論を見る
3月16日 今外に号外売り通るなり｡
3月18日

夜は愛か(仮の名)の其一(箱根にて書きしもの)を書きたり 筆の動かぬは口惜しきかぎりかな
//第1聯隊出征す｡9時半頃まで万歳くくく中々の賑ひに出掛けんとせしも其中騒をやめたれば 之れより何か読書して寝ん､

3月20日 日

☆☆☆吾人は或る意味に於ては甚だ欺かれたり･･･暫くは義太夫は聞くまじ☆☆☆

3月31日 木 宮戸座の車曳と寺子屋とを見る
4月1日 金 琴平
4月2日 土

9時半の汽車にて川村､有島､黒木､春光と鈴川に着す､4時なり 宿屋なく所々別荘など聞き 歩きしも断られ是非なく奥津へ来る 8時なり 一碧楼に宿る

4月3日 三保の松原 景色のいいのは去年以来の渇望を････
4月7日 木

朝10時半の列車にて奥津を出発す 三島に下車 昼食 箱根
箱根 橋本屋に泊る､二階に客あり 横浜の者にていやしき女二人を連れて当箱根に遊び居るとか｡之を聞く吾は､気に食わぬ時節柄､此際等をを[ﾏﾏ]勢ひ用ひたからしめぬ

4月8日 金

コフィー｡菓子｡の御馳走は在京の人のあづかり得ざる味なり ◆◆吾は泳がんものと飛び込むに息し得ぬまでの､さむさに飛上る//午後此所を出で芦の湯 宮の下を経て塔の沢新国に泊まる

7時14分発の電車にて出発す｡小田原の小学校に通う少年の内誠に美しき10歳ばかりなる有り 近年見かけぬ程に美し｡国府津よりの汽車中は疲労に何様たへがたく漸く新橋に着く ◆竹葉に昼食し歌舞伎に 行く ◆◆傍らなる連中見物の女子共八釜しく､やしないがたい哉

4月11日 月 ☆☆☆学校にて先進講話会 小笠原少佐
4月13日 水

岩倉 戦争
兄弟よ若しはからずも過い陥る者あらば････

4月14日
　　マカロフ提督 神よ此いやしき｡争を一日も早く此世界より取り去りたまへ
４月18日 月 行軍
４月23日 土

新宿につき寿司の御馳走あり [演習の終り]
有島の話 Aufの壷坂 昇之助 車上より｢サヨナラ｣
夜 牛込亭に行く

4月24日 日

終日ぼーんやり 夕方より平一と上野へ行き夫より東橋亭
◆◆昇之助の酒屋は感心せず 細かすぎていやみなり
傍にいなせな兄ィあり 会話の面白き事云ふべからず｡/帰れば11時45分

4月25日 月

朝より宮戸座の忠臣蔵を見物す / 打ち入りの立ち廻りなど馬鹿げて見ていられず 帰り 一直に寄り昇之助の太十くくと大に迷ひしが思ひあきらめて帰る

4月26日 火 夜食後､有島が是非昇之助の紙治を聞きに行ふといふので断はりしがしきりにすゝむる により出掛ける････昇之助の紙治は初めてなれば近頃になく面白く聞かれたり 得意ものらし 熱心な り 此日は先日の話あれば多少気がひけ注意力をそがれたり･･･大気を表はし得しも一考へなり 何しろ 余程上手なり
76 4月27日 小野君より電話有り 内村先生は土曜の晩講話会を催さるゝよしなり
細川は大崎の池田ひろ子といふ人と結婚する約ありと徳川の話に回想すれば昨年の正月三日の日誌に「6時10分の汽車にて帰る(大森より)車中甚だしき人なり 乗合の中に19歳か20歳の美しき女｡身の長 は､吾をしのぐかと思はるゝ程にして其体格よりいへばアッパレ偉人の良母たるの資格あり」と記せ し人なりき｡
76 4月28日 木 昇之助の野崎評など書き･･･8時半頃家一氏来り11時過ぎまで例によって議論/浅薄なる 事は遂に議論とならず
77 4月29日 金 夜有島より電話があったので大じゃらにじゃらついて東橋亭に行く｡････昇之助の恋十 はひどく感心もせざりしが坂はてるくなど大によし ･････はねが11時少し前､歩行し月に浮かれて 帰れば12時半｡廐橋のあたりで姉妹の車に会ふ｡例の者､例の如く例のあたりにて例の如かりき
77 4月30日 土 内村先生の所へ行く｡久し振りにて誠に嬉しく7時に祈り｡夫より雑談まことに面白く10時過ぎまで話し帰る☆☆非戦論を持して独り少しも屈するなき先生の勇気は感ずるに余りあり｡
78 5月1日 日 昇之助の野崎評(3頁半)を浄瑠璃に送る｡
79 5月2日 団栄｡の鳴戸｡････全体に昇之助に比し一段か二段下なり｡不器用なり｡声を乱用す｡要するに 昇之助は喜劇的 団栄は悲劇的なり････
5月3日 火 夜平一の家に至り柴山の家に行き林の家に行きTurnerの像をもらひ帰る､
今度の陸戦には一千人程の死傷我にあり｡
5月4日 水 朝井上病院に行きしが･･･有島と赤十字社に行く｡話総て義太夫なり････終日学校を休む
80 5月5日 木 朝井上病院にて注射をなす､/作文は菜の花をあんでるせん張りにかく､
81 5月6日 金 井上病院の帰途正親町の家により招魂社を拝し中西で演劇史とグリク､ヒーロースを買ひ有馬の別荘に行く｡････ベースボール､テザーボール､─｡ピンポン､船､蓄音機､つり､亀井戸の藤､ひる寝､停車場､父上､高架鉄道､田舎洋食｡久本､････昇之助の寺子屋､はいつも程気のりせざりしが量用なもの 正親町大感服なり 此日楽屋を見る(二階より) 絵のスケッチを少しやる
81 5月7日 土 終日学校を休み午後より有島の家により牛込の増田氏を誘ひ上野の太平洋絵会ﾏﾏを見る､ いづれを見ても土が生じたはかり芋､内に､一つ､薪をはこぶ絵は目をひきたり｡石膏は中々うまいもの｡◆家の人は十人連ればかりにて亀井戸に行く｡
◆久本は壷坂 有島ゆかふといったが｡前夜のつかれに､だうしてく
82 5月8日 日 琴平 愛子といふが御殿の終りを･･切が万八の鰻谷､此いつ中々､やりおるだて｡昇之助の ものに比し余程聞きばえあり､小清ほどにはとても｡//此頃女の半襟大に流行なり
82 5月9日 月 朝より学課休む/一年級の人のBase Ball Match
◆◆前夜のカンテラ行列にて死者十九人を出せしとは馬鹿此上なし､
83 5月10日 火 朝､広瀬中佐と家の墓参りをなし昇校すれば林氏は休みなり 南日さんの作文はGoodなり
◆◆ひる大に遊び､帰り､華族女学校の運動会を見る 先年と異なり甚だ愉快なりき､但し主観的なり｡近頃 多少､女にイントレストをもつやうになりたり 皇后様お出になってた､Miss Mcgreeも参会せり､Miss池 田は見えなかった､岡部さんのお嬢さんは大元気､おもとさんもいたり､
◆◆川村より手紙有り､例の美顔水は渋沢にてそのゲエケンスタンドはAufにあらずして昇聞くなり
5月11日 水 ひるの休み人とりをして遊ぶ たしか一人まけたり｡//武課は馬鹿気てくいやデくた まらぬ､/帰りちょっとわけもなく､有島の所へよったので井上病院はすかを食ふ､/晩平一来り､9時半頃 まで遊ぶ/久本は鳴八にて往かふと思へば行けたが何んだか先程の熱はなくなった｡平一が誘ひに来た かと一寸ぎょツとしたくらひ､//青年の誘惑を伊東に借す､/瀬川博士曰くSt.JohnはJeasusにバプテス マをほどこしたる神の如き人なりと･･･
84 5月12日 木 作文は○′なり 評は先づよし､千秋さんの曰く､吾は､言文一致につとめ､放胆的文なりと は｡はてね?◆◆熊本さんの時間をのぞき他は天の網島を読む 文といひ結構といひ巣林子の天災はたしか に見とめ得たり
85 5月13日 人とりは一人勝つ /青年の誘惑を白杉に最大遺物を伊東にトルストイを田村に借す､
5月14日 土 運動会 ◆◆帰り 平一と有島の家に行き増田さんを誘ひ久本に行く･･･昇の助の紙治
86 5月15日 日 中西 紀海音の浄瑠璃集と言海を買ひ井上病院に行く､病大によし､◆◆◆平一時好と､壷坂 の五行本 ◆夜 緑雨のものを見｡//11時近く､/三日分の日記をかき之れより/清書をよみ､ねる/近頃自分 は人の前に出て物言ふこと益々出来ざるやうになれり /虚栄心強くなれり/小心よくくとなれり
87 5月16日 月 久々にて国文に出る､横井也有の百虫の譜は中々面白く俗諺などを用いたり ◆◆放課後､ 華族会館にて催されたる有馬中佐の談話を聞きに行く 此人は第一第二｡閉塞隊々長として行きし人なれば話の下手なるにかからはず､此人がと思へばありがたいやうな､感がして､中々､興味あり｡
◆◆昇之助は若竹に出勤す
87 5月17日 朝1時間休む /昼休みは､西洋鬼ごっこをなす/帰り正親町と裏松 武者 吉光と五人にて武者と正親町の家による､//井上病院
90 5月22日 日 6時起き､聖書研究を読み､Roseを切り10時に内村先生の家へ持って行く､此日は路可10章の1−16、有要なる御話にて､吾は恥かしかりき､先生のJesus教は真に強し､恐怖しながらも心持よし､細解は聖書の余白にあり､････
91 5月24日 火 小山内君 乱読 不真面目 然し小説家になるべくさうなてはならぬかも知れぬ/鳩翁道話を武者より借りる｡/宮崎虎之助といふ人の我が福音書 十時さん
◆◆小山内君の話によれば文学者も随分腐敗してる 第一姉崎さん初め､紅葉でも鏡花でも水蔭でも風葉､ 国木田､ー生田でも 驚いた
92 5月25日 水 一日学課を休み､編纂室にて欧洲歴史の筆記 /帰り 正親町と一所に井上に行く､注射25ヶ 所､耳も見てもらう､◆◆very bad news を得たり 昇菊の不品行にて無節操にて､門左九といふ露探に関係したりなど､又金にいやしきことなどあらゆる悪口百花新報に出たりと立花持ち来る、後有島へ送る｡相手が露探であるなしは何等の関係なし//林は馬鹿な奴なり つまらぬ事･を気にして感情を害し居るらし､ 小人のお相手になってもいられず//路可傳を読みねる､12時なり
92 5月26日 木 ◆◆5時頃平一を誘ひ､三河屋に行き､夜食し正親町を誘ひ､立花と4人にて若竹に行く｡････ 昇の助の堀川は五度なれどいつ聞てもよし･･･帰れば12時 川村に手紙をやりかれこれ1時ねる
93 5月27日 金 朝2時間私にやすむ 中2時間は公に遊ぶ(教場にて) 午後2時間は公然に休みとなる
◆◆夜モーザッサンﾏﾏのMadを4頁程 ◆◆◆此晩夢を見る 例の如く幻なり 怪しき小僧胸に坐り膝小僧を出してキッくと笑ふ､やうな [ﾏﾏ] く､之れを逃れ､此度はうつふしにねる､然る所､誰れとも知れず､床のまわりをガチャく☆☆
94 5月28日 土 午後一人にて明治座へ行く､4ノ6にて見頃なり､
95 5月29日 日 午前の内は有島と戸山の原を散歩す､徴発馬を入れ置きたる馬屋今は実にセキくリヤ ウくたる 馬は実は満州の野にいなゝく｡
輔仁会 邦語対話の敵がい心
98 5月31日 戦死者は3千5百の死傷の中3百人とは嬉し
99 6月3日 金 学校休む 美術学校 展覧会 太平洋画会
丸善 IbsenのLittle EyolfとBuilderを買ひ竹葉 にて昼食
西鶴全集 6円にて買う 琴平にて国五郎の宿屋と某の酒屋を見る 前夜程面白からず
《｢欄外｣ 此朝内山にて夏服を作る/此晩すっぽんの子を買ふ/有島に一寸はげしき手紙をやる､ 》
100 6月5日 日 朝 三馬を一寸読み･･･黒木の家 田村､黒木､柳谷､春光､杉山､有島､志賀､中村､菅田､児 島､遠藤､河村､上田､加太､関､石渡､16人
午後2時近く 杉山の家に行き､人とりをす､指名点呼､yes noなどをす､5時近く此所より又黒木の家に 帰り､ラムネイチゴ豆等を食ひ唱歌を歌ひ1年の会の名につき色々相談し遂に青桂会と命名し､会の不参 者に手紙を出し7時近く分れる 一日此くらひ面白かりしは､恐らく､今年初めてなるべし/夜､独乙語と 清書を読みねる
101 6月6日 月 千秋さんより作文 出征を送るはヽヽヽで☆☆☆
103 6月10日 金 一日学校は休み､午前中にLittle Eyolf 180pagesを読み終れり 愉快さ云ふべからず
☆☆☆武者と吉光とで青山学院 内村先生 ｢義人一人もあるなし｣
6月11日 土 ◆◆中西 D′AnnunzioのThe dead cityとIbsenのBrandと英独両方のWertherと支那人の作っ た熟語字書を買ふ ◆◆五重の塔と油地獄を買ふ 16銭に17銭なり
104 6月12日 日 内村先生の家 路加｡11章の14より28まで 甚だ有益なる話なり､･･･万年亭の前 誘惑を忍んで帰り2時間ほどおばあさんと話11時頃より1時少し過ぎまでMaster Builderを40頁程読みねる､
111 6月27日 月 兵隊が35人ばかりくるといふので大騒ぎ
7月2日 軽井沢 7月3日 草津
7月5日 火 Master Builder 夜は京伝の濡燕子宿傘を読む 中々面白く巧妙なものなり
116 7月6日 水 三馬の日高川清姫物語 其想像力の豊かなる決して欧洲の文豪に劣るを見ず､
117 7月8日 ◆◆三馬の玉藻前三国伝記をよむ 午後3時半より雪雄を起草す
121 7月18日 月 帰宅 兵 27名来ている
125 7月25日 月 青年の誘惑 St.オーガスティンのコンフェッションに誘惑の歴史あり
◆◆西鶴の如きは読むべきにあらず☆☆☆
126 7月26日 火 朝8時 越前堀発の汽船 鹿野山 丸七 5時頃
7月27日 観音崎辺の景色 丸七の娘 昇の助によく似た女にてよい子なり
7月28日 帰宅 黒木と喜吉に行く
7月29日 真砂座の新芝居を見る 変えれば1時近くなり 之れにてしばらく芝居はやめなり 有島は昇の助の帰坂につき何かねぎらひたしといつていたが遂に即興詩人を贈らんといひし故後難を恐れてよしたらといひしに☆☆☆
129 7月31日 日 一人で喜吉に行く 此日まで去年の暮24日より聞きし段種58｡其度数249･･･昇の助のものゝみならば段種21 其度数53 寄席に行きし事70回弱なり
8月1日 月 ☆☆吾に愛なき事は総ての事実によりて思ひ合はさるゝは情なし｡人をゆるすといふ事｡
130 8月2日 空想 W,W,D,A, くだらぬ空想 再び読みつづくるによしなく､不得止散歩
◆◆家一氏への手紙 紅葉を少し読み11時半頃ねる､/空想にふけることは如何に無為なるのみならず其事 によっては少なからず精神を衰弱せしむ☆★
8月4日 紅葉 隣の女 不快 其文の流暢なる､実に京伝 三馬にこゆるを見るなり
132 京伝 種彦の傑作集きたる
8月5日 粋と通
133 8月6日 不眠の訴え ☆★正義 斃るゝとも正義を守れ
◆◆教会も学校も政事も殖産も正義を学び之れに達するが為めの道具なり
8月7日
比羅絵師仕事場の喜劇 9頁 有島に贈る 雪雄の朗読
此朝も2時頃までねむられず
8月8日 月 左団次前日死せり 芸術其ものにとりては左程惜むべきにあらず 広瀬中佐の死より
8日10日 箱根にもち来りし本☆★

明治38年
174 1月7日 HearnのThe Story of Kawashin KojiとKogi the Priest
一葉のにごり江
1月8日 路加｡第15章
190 2月12日 日 角筈 但以理書2章
191 2月16日 木 服部先生
2月18日 土 品性の下書き 来月5日の大会でやる演説の下書き
192 2月19日 日 但以理書
193 2月23日 木 夜例の如く服部先生の御宅へ行く
194 2月25日 邦語演説の例会 松村先生の戦争談 滑けい多く 私の富はただ､べらくならべたばかりで上手でもなし
2月26日 但以理書第4章 此日授業ある､好調のヴァニチーの犠牲になるでもなし
◆◆煩悶を文章にする｡
195 2月27日 月 夜いやく宮松に行く 昇の助の恋十､てんでなってゐず､大切の弁天小僧などよく真面 目であんなものをやれたとあきれかへる｡昇の助はなんだか益々下手のように思ふ､
3月1日 水 仙太は男女のことあればいけないと没書､
196 3月2日 夜は例の通り服部先生の所ある
3月3日 喜吉 広勝の菅四､悪くもなし･･･峯子の鳴八･･･ 組幸の太十は申し分なく昇の助 長年等の到 底及ぶ所でなし 久し振りでこんな面白いのを聞いた､
3月5日 日 但以理書第5章
輔仁大会 品性の演説 ｢大きな法螺｣ ｢酒飲みの禁酒演説｣とう失礼な申し分
3月6日 月 元日よりの金銭の収支☆★
書物 11円77銭 芝居と寄席の費用 11円90銭 会費凡そ8円20銭
○肉の世なる哉､/午後正親町と深川 洲崎の遊女町を見物し･･･
198 3月7日 世の所謂恋とは肉慾の謂にあらざるか ☆★
199 3月9日 日 直方氏 負傷 実に不愉快だ､腹が立つ､戦争は大なる罪悪だ､
明治40年 [24歳]
201 1月1日 火 午前一時頃 かえってRudinを少し見て眠る､
有シマへ─ホトヽギス､と端書
202 1月2日 木 午前は夏目さんの野分を見る､野分は､二つの見方を一時にするを要す､部分々々の論旨　大に味深かく此議論が集まって又一つの小説とも議論ともなって居るのだ｡････
203 Rudinは実にケチな奴だ､此小説中同情をひく人物殆どなし､Natalyaだけだ ☆★
204 1月6日 日 武者 ホトトギスと早稲田文学 午前は角筈 希伯来書�]�Vなり､一時なりとイ　
エスを離れる 事考えものなり｡････｢天うつ浪｣とザンゲを買ふ､
206 1月8日 木下氏の｢懴悔録｣ ☆★ 懴悔即ち新生涯と思ふ余には何んとなく不満
1月9日 丸善 ロシアの文学史 ガンチャロフとデカメロン
207 1月12日 午前無為､午後無為､夜無為にくらす｡
安君より手紙にて､ソノ事で黒木と相談する､武郎氏帰朝の上万事定まるべし
209 1月20日 日 午前､無為､角筈は先生風邪にて休みの由
214 2月2日 黒木とリンゴを持て角筈の先生を見舞ふ､････服部先生の所ではイヨくMilton
215 火 心証説 ｢無法者｣といふゴルキーの訳を見る､/｢イブセンの第三定刻について｣読む
三時頃から短篇を書きかける
216 2月6日 水 武者と独ヤクノモーパッサン/夜独で東猿の酒屋を聞く 感服せず､
2月8日 水 終日頭が変で何もなさず/夜モウパッサンのOrphanを読む 実にビ妙な所アリ､[
217 2月9日 土 学校を休み､午後から中坂下の教会に藤村の(種蒔く人)といふ話を聞く 此上もなく下手 であったが心から感動を与へられた
2月10日 武者小路来る 快談 午後共に丸善に行きBrandとMaetrlinckを買って帰る､
218 2月12日 火 藤村氏ヲ訪問センカト大ニ迷ッタガヤメタ◆◆玉ノ井ニ寄リ円蔵ヲ聞ク､感服セリ､
2月13日 マーテルリンクのModern Dramaヲ読ム 雑故不可解､午後､武者と独乙語でMaupassantノWolf ヲ読ム､夜木下ト新声館ニ行ク････素行ノ沼津ハ涙ヲ浮カベタ････帰ツテカラ八重子ノ｢縁｣ヲ読ム､中 々ヨシ､写生文｢散歩｣モヨシ､
219 2月14日 大塚女史ノ｢あきらめ｣ヲ読ム
2月16日 土 夜東猿を宮松に聴く､太十なり､余は彼を尊敬す､/MaupassantのCakeを読む､
2月20日 無為に暮らして､午後登校 帰りに山内を訪ひ､11時半まで話す
221 2月23日 土 午後服部先生
223 2月28日 Merchant of Venice 了る
3月2日 土 学校まで行ったが休むで午後岩倉を訪問 午後服部先生 夜は宮松に行く
◆◆◆木原店 小さんの落語
224 3月3日 日 久しぶりで角筈 先生の話は実によかった､帰り輔仁会へ行く◆◆乃木さんのアイサツは単簡でよし､新渡戸さんの話は大かつ采だったがチットも感服しなかった､イヤナ人が世間ではもてるものよ､南部某中一の｢一場の夢｣は実に面白かった､藤村の話以来､感じた話だ､上手なものだ､

3月4日 月 文学概論を休むで武者と･･･夜喜よしへ行って｢坊ちゃん｣を馬楽にやろうとしたが･･･

225 3月5日 火 夜､喜よしへ行って帰りに馬楽に｢坊ちゃん｣をやる､大に喜むで居た､名前と番地も教へてやった､来てもよいと云ってやった､

226 3月9日 土 午前8時半両国発､午後2時近く銚子暁鶏館着､/祖母､母､子供4人､お節､さきで大人数であった､･･･モーパッサンThe Pedlerヲ読む､

3月10日 日 午後帰る､愉快な行だった､/Maupassant乃木Mother and Sonヲ読む 面白カッタ
227 3月11日 月 風邪ノ為メ文学概論をヤメ黒木と帰る､････自転車に乗った人を馬鹿ト云つたので･･･ 3月12日 火 午後独乙語とGorkyを見る､/小悪魔の存在をヤヽ明カニス､

3月13日 水 風邪で頭痛､午後武者の勉強/夜抱月訳の｢其女｣を読む 一寸面白かった､
3月14日 木 夏目さん休みで･･･//夜Brand第一幕を読む､
228 3月15日 金 午前無為､午後頭痛でヒルネ､柳一寸来る､/夜武者来る､愉快に話す､/帰ってから絵を見 てねる､嬉しくてくたまらず 聖書を読み出しヨハネ傳を研究した､アケ方4時過漸くねむる､

3月16日 土 午前学校を休み､Brandの第二幕を読む､/午後服部先生､･･･

3月17日 午前角筈､暗記して行ったSt.Jhonの1章の１−5
夜お節さんと2時間余り話す 愉快だった､


漱石と直哉
202 1月2日 木

午前は夏目さんの野分を見る、野分は、二つの見方を一時にするを要す、部分々々の論旨　大に味深かく此議論が集まって又一つの小説とも議論ともなって居るのだ。・・・・